少し前になりますが、とある企業様の「今期の振り返りと来期に向けて」というテーマの話し合いの場に参加させていただきました。
話し合いは、各事業部・チームのリーダークラスの方々がひとりずつ、一年を振り返っての評価・感想を述べ、それから来期に向けての抱負や周囲へのリクエストをする──といった形で進んでいきました。
「来期に向けての抱負やリクエスト」を伝えあうシーンでは、参加されていた方々が皆活き活きと意見や考えを発信されていました。例えば、以下のような感じです。
「もっと社員が、所属・チームに関わらず一体感を持てる組織にしていきませんか」
「部署間での連携・繋がりを意識していける状態にしていきたい」
「意見やアイデアが、もっとシェアされて活性していけるように…」
「一体感」や「共有」、「繋がり」といったキーワードが目立ち、今後組織としての連携がますます活性していくのが予測できるような刺激的な場でした。
──それから半年後、その企業様の同様のテーマの話し合いに呼ばれ、先日また参加しました。
そこでの話し合いは、「組織間のステークホルダー(利害関係)をなるべく少なくした少数チーム体制で、より業務をスムーズにしていこう」という結末になり、具体的なチーム体制や運用の流れが大まかに決められていきました。
業務の効率性は重要なテーマです。ですが一方で、その決定について少なからずの驚きも感じた──というのも正直な感想でした。
なぜなら、話し合いには前回とほぼ同様のメンバーが参加したにも関わらず、前回挙がった(チームや事業部の垣根を越えての)「一体感」や「繋がり」とは、やや逆方向に意識・決定が進んだように感じられたからです。
さて、なぜこの半年間で、当初掲げた目標・キーワードが浸透されなかったのでしょうか。今回は、組織・チームで掲げる「目標」と、その際に発生されやすい「阻害要因」についてお話していきたいと思います。
目次
組織やチームが素晴らしい目標を掲げたにもかかわらず、実際の活動はうまく行かなかったり、逆方向に進んでしまうということは、決して少ない事例ではありません。
そして、目標やビジョンを掲げながらもそこへのアプローチがなかなか為されない状態は、組織・チームと、属する人々を疲弊させていき、モチベーションやエンゲージメントへの低下にも繋がります。
──つまり、「組織・チームがなかなか目標にむけて変化できない」という状態は、少なくない事例ではありつつも、組織・チームとしては、「何としてでも改善・回避したい問題」と言えます。
ハーバード大学教育学大学院教授のロバート・キーガン(Robert Kegan)は、このような「組織・チームが変わりたいのに、変われない」という問題について、その真因を炙りだす為の、「免疫マップ」というフレームワークを提示しています。かなり有効な手法ですので、簡単に紹介しておきましょう。
組織やチーム、そして人が目標に向けて進めていけない、または「変われない」状態であるとき、上記表の2~4が(ときにとても強力に)作用している──というのが、この「免疫マップ」のフレームワークのいわんとするところです。
実際に、冒頭で紹介した企業様の状況において、免疫マップがどのようになっていたかを顕してみましょう。
※ 今回、無理をお願いして2名の方に免疫マップの作成にご協力いただきました。
──Xさん、Yさんの免疫マップを観て、如何でしたでしょうか。
仮に、Xさん、Yさん以外の方も同様に2~4に何かしらの阻害要因と、その背景となる想いや価値観があるとしたら、この組織で掲げた「チームや事業部の垣根を越えての一体感や繋がりを強めていく」という目標を達成することは、かなり困難になるであろうことは、誰から見ても明らかでしょう。
大切なポイントは、目標への取り組みが難航している際には、「阻害要因」だけではなく、その背景にある当事者たちの「内なる心の声(不安・恐怖)」、「裏の目標(強い価値観・固定観念)」も見ていく必要がある、ということです。
背景が見えれば、そこから適切な対策を考えていくことも可能でしょう。ですが、背景が見えないままの状態では「目標のなし崩し」が起きるのを待つのみとなってしまいます。
「好奇心旺盛で、どんな変化も楽しみでしょうがない」という人でも、「自分の中の強い価値観、考え方も柔軟に変えていける」という人はほとんどいないでしょう。
人はそもそも、変化や違いを受け入れることに対して、「勇気」を持って臨む生き物なのです。
組織やチームが新たに目標や変革のビジョンを掲げるときは、すなわち組織・チームが「変化」していくということです。そして、その変化の際には、そこに属する人達の多様性・価値観の違いも浮き彫りになります。
つまり、組織・チーム新たな目標や変革に向けて推進していく際、そこに関わる人々の内面からやってくる「阻害要因」が発生されやすい、ということです。
そして、私たちは新たな目標や変革を受け入れられるための準備として、自身の「内なる声(不安や恐れ)」と、「裏の目標(強い価値観・固定観念)」と向き合うことが求められるのでしょう。
では、組織・チームが新たに掲げた目標にしっかりとアプローチしていき、変革を起していく為にはどうすれば良いか──
その為には、以下の3つのアプローチが有効と言われています。
1つ目のアプローチは、阻害要因に関わる自分自身の「内面(意識・無意識に関わらず)」を知ることです。
そしてその取り組みは、「一人(自分)だけすればよい」ものではなく、関わる人すべてを対象に、まずは内面のメカニズムそのもの(「内なる声(不安や恐れ)」と、「裏の目標(強い価値観・固定観念)」)の存在を理解しておくことが大切です。──まさに、「免疫マップ」の項目を埋めていく行為ですね。
ただ、自身の内面を探求していく働きかけはときに「痛み」も伴います。また、「全員が同じくらい深く理解できる」ということはありません(個人差がでます)
ですが、実際に実施してみると、自身の行動に大きくブレーキをかけていた要因(固定観念や囚われ)に気づき、中には飛躍的な内面の変化をされる方も多くいらっしゃいます。
まずは、自分自身の内面を受け入れ、受け止めることが、目標・変革に立ちはだかる「阻害要因」を乗り越えていく為のスタートになると言えるでしょう。
#1で自身の内面を顕していった後は、更に深い内省(考察)を行っていきます。
内省のポイントは、以下の点について考えていくことです。
・自分はこれまで何を大切に生きてきたか
・自分はこれからどのように生きていきたいか
・自分はこの組織・チーム、そしてメンバーに対し、どんな貢献をしていきたいと思っているか
・今回の新たな目標・変革について、どう働きかけていきたいか
そしてここで内省して出てきた気付きを、組織・チームの仲間と共有し、相互フィードバックしていくことが重要です。相互フィードバックすることにより、内省での気付きはさらに深まり、そして相手の内省を知ることによって相互理解、信頼関係の構築にも繋がります。
そして最後の3つ目の取り組みが、内省と相互フィードバックで得た「気づきの実践」です。上記#1~#2の取り組みにより、「自分を(より良い状態に)変えていこう」という共通認識が組織・チーム内でも共有されていきます。
つまり、これまで目標や変革で掲げられたキーワードやメッセージが、「自身の変革への働き」へと繋がっていき、更に組織・チーム内でも共通概念として、意識されるようになるのです。目標や変革に向けて意識・行動することが、すなわち自身への変革にも関わるので、自ずと意識レベルが高まり、これまで無意識下にあった強い固定観念や囚われが解放されやすくなる──ということですね。
「周囲を変えていくとしたら、まず自分から変えていくことが大切」という言葉が示す通り、組織・チームで掲げた目標や変革へのアプローチは、まず自分自身から意識・行動していくことが大切です。そして、自身の意識を望ましい方向に向けていき、行動に変換していく為に、上記#1~#3の取り組みが有効となるのです。
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ここまでお読みになられて、如何でしたでしょうか。
組織やチームで「チャレンジングで、かつワクワクするような目標を掲げる」ということは、素晴らしいことです。
ですが、その目標が高ければ高いほど、そこに関わる人たちは大きく変化、変容していくことが求められます。そして、人は「組織やチームの素晴らしい目標」を本当に自分事として捉えるには、少なからずの時間が必要となるのでしょう。
組織・チームが掲げた目標を達成していくために、為に、私たちは今ある「阻害要因」をしっかりと見据えて、自身の内面を探求していくことが求められます。そして、成長への一歩を力強く踏み出す変化を自分から受け入れていく勇気が、大切なのです。
皆様が自組織の目標形成やチームビルディングをされていくうえで、今回の記事が少しでもお役に立てることを、心より願っております。
アーティエンスでは、組織・チームの変革アプローチの支援サービスを行っています。組織のビジョン形成やこれからの変革に向けて課題をお持ちの企業様は、是非お問い合わせください。