現在、多くの企業様において、若手社員のリーダーシップ力を培おうという働きが活性しています。
拡大・成長の著しいベンチャー企業では、2年目、3年目社員が役職としての「リーダー職」(大企業で言うところの、主任・係長クラス)に抜擢されるというケースも少なくありません。
これだけ変化や移り変わりの激しい世の中では、「リーダーシップ」は役職者だけではなく、1年目社員も含めたすべてのスタッフが持っていたほうが良い、持っているべき──そのような風潮が高まってきています。
ですが、ここで言われる「リーダーシップ」は、そもそもどんなものなのでしょうか。そして、リーダーシップは私たち誰しもが「こういうもの」として抱いている一般概念として存在しているものなのでしょうか。
──今回は、「リーダーシップ」という言葉をキーワードに、若手社員に求められるリーダーシップの在り方についてお話していこうと思います。
目次
リーダーシップの「リーダー」は、そのまま直訳すると「導く(lead)人」。つまり、組織に対して、あるべき(またはありたい)方向に向かって導いていく人ということになります。
ちなみに、リーダーの動詞態である「リード」は、その語源(leith)として「出発する」「敷居を越える」という意を含んでいます。──何かしら、「始めよう」「動き出そう」といった、アクティブな印象を持ちますよね。
ですが、上記の説明のみで「リーダーシップとは何か」を語ろうとしても、ややあいまいな内容になってしまいそうです。上司が若手社員に、「君らにリーダーシップを持ってほしいんだ」と言って、若手社員が「リーダーシップって何ですか」と質問されて、上司が、「それは、あれだよ。ほら、導いていく…的なさ、出発するというか、敷居を超える…みたいな?」と答えて、若手社員は「すみません、、よく分からないんですけど…」といぶかしげな表情をして──。実はこの話、実際にとある企業であった会話です(少しだけ脚色していますが)。
ここまでお話したように、「リーダーシップ」は、抽象度の高い言葉です。まずそのことを私たちは認識しておく必要があります。
そして、抽象度の高い言葉というものは、人によっての解釈の幅が出やすいこと、更には、時代の流れによって概念が移ろいやすい傾向をも持ちます。そこが、リーダーシップを語る上で難しい点と言えるでしょう。
ですが、「リーダーシップは抽象度の高い言葉です」で話を終わらせてしまっては、そこからの発展性もなくなってしまいますので、もう少しリーダーシップという言葉の定義を明確にしていきましょう。
リーダーシップを語る書籍の多くでは、リーダーシップを構成する要素としてよく以下の三点を上げられています。
つまり、リーダーシップとは、「ビジョン・目標を掲げ、そしてそれに関わる人たちのやる気を引き出し、たゆまず推進し、結果を出すこと」ということですね。特に一つ目の「ビジョン・目標を掲げられること」については、変化の速さから見通しのつきにくくなってきている現代社会においては、その必要性は更に高まってきています。
先ほどの「リーダーシップの意味」で紹介した内容と比べると、上記3要素の定義はかなり具体性が出てきている感があります。──と同時に、それを実現する難易度もまた、かなり高まったように感じられた、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「そんな難しいことを、若手社員に求めてしまうのはちょっと酷なのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。──それでも尚、現代において多くの組織が若手を含めた全社員にリーダーシップとしての働きかけを求めるのは、なぜでしょうか。
一旦、冒頭の話に戻りましょう。「若手社員もリーダーシップ力を持ち、高めていくべき」という考えについて、果たしてそれは適切なのでしょうか。
多くの方がご認識されている通り、その考えは「適切」と言えるでしょう。──その理由は、大きく3つあります。
特に意識しておきたいのは、3つ目の「リーダーシップはその人自身への導きかけ、やりがい・働きがいにも繋げていける」という点です。つまり、リーダーシップは「組織の為」のみならず、「それを発揮するその人自身の為」にもなる、ということですね。
──ですが、若手社員にリーダーシップを発揮させていくことが適切だとしても、前章で挙げた「リーダーシップの発揮自体は、難易度の高いものであり、若手社員にとっては荷が重いのでは」という懸念は残ったままです。
さて、この点についてはどう考えていくのが良いでしょうか。
若手社員にリーダーシップを発揮させていく為にどうしていくか──という問題に対しての効果的なアプローチは、以下の3つです。
ここからは、特に重要なポイントとなりますので、一つずつ追って説明していきましょう。
リーダーシップを発揮するにあたって特に重要なのは、発揮していくベクトル(方向性)を定めること、つまりはビジョン・目標を掲げさせることです。
人は、何の目的や動機もなしに行動することは殆どありません。特にリーダーシップのような力強い行動が行われる際は、相応の力強いビジョン・目標が必要となるのです。そしてそのビジョン・目標があるからこそ、私たちは「ではどう行動していこうか」と考え、実行することになるのです。
「そうは言っても、ビジョン・目標をどうやって掲げさせて良いかが分からない」という方は、以下の図をご覧ください。
上記は、「ハリネズミの概念」という名称でも知られる、人や組織が価値発揮をしていく際のポイント創出の際に使われる図です。3つの円が重なるポイント(「スィートスポット」と呼ばれています)を見出して、そこをこれからのビジョン・目標として定めていきます。
もし現在、「ビジョン・目標をうまく掲げられない」という状況である場合は、3つの円「会社から求められるもの」、「強みであること」、「情熱を持てること」のどれかまたは複数が弱まっていたりあいまいになっていることが考えられます。それらを強化していく上で、いずれ中心のポイントが見えてくることでしょう。
スイートスポットは、最初は小さいもの、些細なものであっても問題ありません。そこを意識し続けさえしていれば、段々と領域は広がっていくものです。
続いて大切なことは、「リーダーシップの活動サイクルを(小さくても構わないので)回していくこと」です。リーダーシップの活動サイクルは、イメージ化すると以下のようになります。
サイクル内の要素を見て、お気づきになられた方もいらっしゃるかもしれませんが、これら要素は先ほどの「リーダーシップを構成する要素」とほぼ同じ内容なのです。
つまり、これら要素は単独で存在するものではなく、互いに影響しあいながら循環しているものということですね。そしてこの循環は、継続することによって働きかけは高まっていきます。
「リーダーシップの働きかけ」と言って、いきなり最初から「新サービス・商品企画」であったり「事業の立て直し」、「新規事業設立」といった大きな目標を立てて実行する必要はありません。最初は小さな取り組みでも良いのです。大切なのは、それを「継続していくこと」です。ひとつのリーダーシップの活動サイクルは、継続していくことによっていずれは大きな潮流となって、それは組織を大きく変革していくことにもなりえるのです。
そして、その行動の開始時期は、早いに越したことはないでしょう。
最後にお伝えするポイントが、「リーダーシップが必要・大切なものであることを周囲が伝え続け、そして(決して)それを急がせないこと」──もしかしたら、これが一番大切かもしれません。
リーダーシップは全社員にとって大切かつ必要なものであったとしても、それを強要してしまったり、「強要された」と思わせてしまっては、受けた側からすれば大きな矛盾感を抱くことに繋がりかねません。リーダーシップを執ることを強要した時点で、もはやそれは本来のリーダーシップとは無関係の働きかけです。
大切なのは、やはり当人がそれを「やろう」と思うことです。
前段で、「リーダーシップは誰しもが必要で大切だ」と述べましたが、唯一、当人自体が「まだその必要性を強く感じられない」状態だとしたら、周囲はリーダーシップの大切さについては伝えつつも、無理に意識や行動までを変えようとすることなく、じっと「信じて待つ」方が望ましいでしょう。
人はふとした気づきやきっかけで、その後の意識や行動も大きく変わるものです。
誰が何を言っても改善されず、自他ともに「お荷物社員」という認識を持たれていた方が、あるときたまたま自チームの購買伝票を見て、「うちのサービスはこれだけの金額分の価値を、お客様から感じてもらっているんだ」と感じ取り、それから初めて仕事にやる気を持てたという方もいます。
前回のコラムでもお話しましたように、人は皆それぞれ自分だけの「価値観」や「仕事観」を持っています。そして、それらの感情がやりがいやモチベーションに繋がるきっかけもまた、人それぞれです。
つまり、リーダーシップを執れる状態にすぐなれる人もいれば、そうでない人もいるということですね。
「すぐなれる人」に対しては、早いタイミングでその機会を提供していくのが良いでしょう。そして、「すぐなれない人」については、周囲は無理に強要することなく、その人が「リーダーシップを執ろう」と思いはじめる時期が来ることを「信じ続ける」ことが、とても大切であるように感じられます。
ここまでお読みになられて、いかがでしたでしょうか。
一般に言われているリーダーシップの意味・定義については前に述べた通りですが、このように言い換えることもできるのではないかと思います。
「リーダーシップとは、組織と自身の『望ましい・目指したい将来』を掲げて、仲間と共に歩み続けること」
そして、大切な点は、リーダーシップは「発揮するもの」というよりかは、「発揮され続けるもの」であるということです。継続、持続するものであるからこそ組織にとって重要なものであり、かつ一人一人の社員にも求められる所以なのでしょう。
組織と、そして社員ひとりひとりの、望ましい・目指したい将来はどのようなものか──そんな観点から、職場やチーム内でリーダーシップについて話し合ってみるのも、良いかもしれませんね。
皆様が若手社員の方々の育成・指導をされていくうえで、今回の記事が少しでもお役に立てることを、心より願っております。
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