【テンプレあり】現場育成力を上げる!効果的なアプローチと実践方法

「採用基準を下げた結果、これまでの育成方法では成果が出なくなった…」
「若手社員の離職防止のためにも、現場育成に力をいれたい…」

近年、売り手市場の影響で中小企業では採用基準の引き下げや採用人数の減少が進んでいます。しかし、組織はこれまでと同じ成果を求めるため、現場の育成負担は増すばかりです。

この負担を軽減するには育成の「目的」「タイミング」「内容」「方法」の明確化と、育成担当者のスキル向上が重要です。

本コラムでは、現場の育成力を支える5つの要素とその実践方法を紹介します。さらに、育成力を高める具体的なステップや、成功事例も取り上げます。

育成の仕組みを整えれば、社員の成長が加速し、現場の負担も軽減されます。新入社員育成を「負担」ではなく「未来への投資」に変えるために、できることから始めてみましょう。

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執筆者プロフィール
菊地 大翼
組織人事コンサルタント。業界歴15年以上。研修会社に入社し、法人営業で売上トップを達成後、新規商品の開発に従事。現在は人事制度構築支援、成人発達理論に基づいた人材・組織開発のコンサルティングを行っている。

専門性:パフォーマンス・マネジメント、研修開発・ワークショップデザイン、成人発達理論を活用した人材開発・組織開発

1)現場に必要な育成力は5つの要素で構成されている

「現場に必要な育成力」とは、新入社員や若手社員が自分で考え行動できるようになるために、働きやすい環境をつくり、関っていく力です。ただ教える・助けるだけではなく、本人が持っている力を引き出し仕事のスキル・考え方・気持ちの成長もサポートします。

現場の育成力:5つの要素

そもそも、現場の育成力は何によって構成されているのでしょうか。現場の育成力は主に5つの要素から構成されています。

①期待する姿と育成計画の設計
②ティーチング
③フィードバック
④コーチング
⑤成長環境の形成

期待する姿と育成計画の設計

社員の成長を促進するためには、明確な目標設定と計画的な育成が必要です。

目標が曖昧なままでは、育成が場当たり的になり、成長が期待通りに進まなくなります。一方、明確な目標や育成計画があると、関係者の間での「共通言語」の役割も果たすため、一貫性のある育成が可能です。

例えば、「3ヶ月以内に基本的な業務を一人でこなせるようになる」という具体的な目標を立て、その達成に向けて育成計画を作成します。これを育成担当者やチームメンバー、人事、経営陣が共有することで、社員の成長を加速できます。

明確な目標と計画が育成の一貫性を保ち、全員で協力して社員の成長を支える基盤となります。

ティーチング

社員が基本的なスキルや知識を身につけるためには、教え方の質が非常に重要です。成長のフェーズに合わせて、ティーチングの方法も異なります。ただ答えを教えるのではなく、考えるプロセスを伝え、主体的な行動を引き出す場合もあります

ティーチングの質を高めると、スキルに加えて社員の考え方や主体性も育むことができます。

フィードバック

適切なフィードバックは、社員の行動改善とモチベーション向上に欠かせません。
フィードバックがなければ、社員は自分の行動が正しいかどうか分からず、改善の機会を逃してしまいます。さらに、正しい行動が評価されなければ、モチベーションが低下する可能性があります。

フィードバックをする際は、期待する成果を明確に伝え、達成度合いに対して定期的にフィードバックすることが重要です。達成できた場合には評価とポジティブフィードバックを、改善が必要な場合には具体的なアドバイスを行うことで、社員の成長を促進します。

コーチング

社員自身が考え、問題を解決する力を育むには、コーチングが効果的です。
指示を与えるだけでは、社員は受け身の姿勢になりがちです。一方、コーチングでは社員に考える時間を与え、自分で答えを導き出すサポートを行うため、主体性が養われます

例えば、「次のプロジェクトではどう進める?」と問いかけ、社員の考えを引き出します。その後、「良いアイデアだね。加えて、この部分も考慮するともっと良くなるかも」とアドバイスを加えることで、社員の視野を広げます。
コーチングを通じて、社員の主体性と問題解決力を高めることが可能です。

<参考研修サービス>
育成担当者・OJTトレーナー研修
<参考コラム>
管理職研修でコーチングを成功させる3ステップとは?
具体例でわかる!ティーチングとコーチングの効果的な使い方

成長環境の形成

社員が安心して学び挑戦できる環境を整えることで、育成の効果は最大化します。心理的安全性が高い環境は、新しい挑戦がしやすくなります。成長環境の形成には以下の3つのポイントが重要です。

1. 信頼関係の構築
信頼できる関係があってこそ、ティーチングやフィードバック、コーチングが効果を発揮します。信頼が欠けていると、アドバイスが批判や攻撃と受け取られ、抵抗感が生まれることがあるためです。上司が部下の意見や価値観を尊重し、一人の人間として向き合うことで信頼関係を築くことが重要です。

2. 心理的安全性の確保
失敗しても責めず、改善策を一緒に考える文化を作ることで、社員は挑戦しやすくなります。定期的な1on1ミーティングで、社員の悩みや不安を聞き、安心して働ける環境を整えます。

3. リソースの提供
必要な情報やツールを提供することで、社員は効率的に学べます。新しい業務に必要な資料や外部研修を整備し、学習環境を支援します。

これら3つのポイントを意識しながら成長環境を形成することで、社員が主体的に成長に向かう土台を作ることができます。

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2)【段階別】現場育成における優先順位と育成支援例

育成のフェーズを導入期、習熟期、自立期の3段階に分けて、それらの段階で具体的に育成力の5つの要素をどのように活用すればいいのかを具体例とともに紹介します。

導入期

社員が環境に慣れる段階(入社してから3ヶ月程度)では、社員が職場の環境や仕事の基礎を理解し、安心して働ける状態を作るための育成が必要です。

導入期には、5つの要素の以下の点に注力することが大切です。

1, 成長環境の形成
社員が安心して業務に取り組めるよう、信頼関係を築き、積極的なコミュニケーションの場を設けることが重要です。

2, ティーチング
業務の基礎をしっかり教えるために具体的な手順やスキルの丁寧な指導が大切です。社員が業務の全体像を理解できるように、背景や目的も合わせて説明しましょう。

3, 期待する姿と育成計画の設計
組織が期待する姿とそのための育成計画を伝え、進むべき道筋を提示します。

4, フィードバック
早い段階で進捗を確認し、ポジティブなフィードバックを与えて自信を持たせることが重要です。改善点は具体的に伝え、次回に活かせるアドバイスを行いましょう。

5, コーチング
振り返りの時間を提供し、自分の行動や思考を整理させて、成長を促します。

これらに注力することで、新しい環境に不安を感じたり、仕事の進め方がわからない状態をなくせます。環境適応にかかるストレスを減らし、業務に集中できる環境を整えます。
具体的な行動例としては、以下のようなことが挙げられます。

優先順位 現場の育成に必要な5つの要素 具体的な行動例
1 成長環境の形成 ・職場のルールや文化を丁寧に説明する。
・業務に必要なツールや設備の使い方を教える。
・こまめな声掛けにより社員の不安や疑問に対応する。
・定期的な進捗確認を行い、問題点や不安を早期に把握する。
2 ティーチング ・業務の基礎的なルールやプロセスを一から教える。
・背景や目的を丁寧に伝える。
・ツールや設備の使い方を実践的に教え、理解を深めさせる。
・新しい業務の担当前に、基本的なスキルや知識を確実に伝える。
3 期待する姿と育成計画の設計 ・目標達成に向けて目指すべき具体的な姿を示す。
・初期段階での小さな成功体験を提供し、達成感を感じさせる。
4 フィードバック ・成果に対して具体的で優しいフィードバックを行う。
・良い点をまず評価し、改善点を具体的に伝える。
・改善案やアドバイスを提供し次へのステップを示す。
5 コーチング ・振り返りの時間を提供し自分の行動や思考を整理させる。

社員が環境に慣れる段階では、社員が職場の環境や仕事の基礎を理解し、安心して働ける状態を作るための育成が必要です。

習熟期

基本的な業務ができるようになる段階(配属後から半年程度)では、日常業務を一人でこなせるレベルまでスキルを習得させるための育成が必要です。

習熟期には、5つの要素の以下の点に注力することが大切です。

1, 成長環境の形成
社員に責任ある役割を与え、主体性を持って業務を進められる環境を整えます。挑戦を歓迎し、失敗から学べるマインドを醸成することが重要です。

2, ティーチング
具体的な課題を通じて、効率的な業務の進め方や高度なスキルを指導します。質を高めることを意識した指導が必要です。

3, フィードバック
努力や成果を積極的に評価し、次に必要なアクションを具体的に伝えます。社員がモチベーションを維持できるよう、改善点とともに称賛を欠かさないことが大切です。

4, 期待する姿と育成計画の設計
目標や計画をもとに難易度を段階的に上げていきます。社員の状況に合わせて調整も行います。

5, コーチング
社員に考える時間を与え、質問を通じて自発的な問題解決を促します。振り返りの場を提供し、自己成長を継続的に支援しましょう。

これらに注力し、基本的な業務を自分で進められるようになると、社員は「自分でやり遂げられる」自信を持つことができます。この自信が次のステップへの意欲を引き出し、より挑戦的な業務に取り組むための土台となります。

具体的な行動例としては、以下のようなことが挙げられます。

優先順位 現場の育成に必要な5つの要素 具体的な行動例
1 成長環境の形成 ・チーム内での役割を与え、積極的なコミュニケーションを促す。
・進捗や成果に対し、感謝の気持ちやポジティブなフィードバックを伝え、安心感を与える。
・社員が失敗しても責められることなく、改善策を一緒に考え、挑戦しやすい環境を提供する。
2 ティーチング ・業務の振り返りを行い、適切な手順を示す。
・業務の進め方や効率的なやり方を具体的に指導する。
3 フィードバック ・進捗や成果に対し具体的なフィードバックを定期的に行う。
・成果があった場合は評価し、努力を称賛する。
・改善が必要な場合は、改善案を具体的に伝え、次回に活かせるようにアドバイスする。
・フィードバックを通じて社員に自己改善の意識を持たせる。
4 期待する姿と育成計画の設計 ・少しずつ難易度を上げていき、成功体験を積めるようにする。
・社員の状況に合わせて計画を調整する。
5 コーチング ・問題が発生した際、すぐに解答を与えるのではなく、まずは考えさせる。
・業務の振り返りの時間を設け、社員が自分の行動や思考を整理できるようにする。
・自分で解決策を考える力を育むために、問題解決に向けたアドバイスや問いかけを行う。

基本的な業務ができるようになる段階では、日常業務を一人でこなせるレベルまでスキルを習得させるための育成が必要です。

自立期

自ら考え行動できる段階では、自律的に業務を遂行し、周囲にも良い影響を与えられる人材に成長させるための育成が必要です。

自立期には、5つの要素の以下の点に注力することが大切です。

1, 期待する姿と育成計画の設計
社員の希望や適性を考慮し、次に目指すべきステップを明確にします。成長を実感できるよう、進捗を確認しながら新たな挑戦を提案します。

2, コーチング
課題の解決策を社員自身に考えさせ、必要に応じて適切な質問や情報を与えます。意思決定の場面では、自主的に最適な選択ができるようサポートを行います。

3, フィードバック
成果やプロセスを評価すると同時に、社員自身が振り返りを行い、改善点を見つけられるようにサポートします。次の行動につながる具体的なアドバイスを提供します。

4, ティーチング
重要な業務を任せる前に、意思決定の方法や進行手順を教えることが大切です。より行動なリソースやツールの使い方を具体的に指導します。

5, 成長環境の形成
社員が意見やアイデアを自由に発信できる環境を整えます。社員の適性を見極め、得意分野や興味を活かせる業務を担当してもらうことで、モチベーションを引き出します。

これらに注力することで、社員は企業のビジョンや目標に対して意欲的に貢献することができ、成長のスピードが早くなります。長期的に見て、組織にとって欠かせない存在となるだけでなく、キャリアの選択肢も広がり、社員自身の成長にもつながります。

具体的な行動例としては、以下のようなことが挙げられます。

優先順位 現場の育成に必要な5つの要素 具体的な行動例
1 期待する姿と育成計画の設計 ・社員の適性や希望を踏まえ、成長につながる業務やプロジェクトを割り当て、キャリアのマイルストーンを設計する。
・定期的に進捗を確認し、計画を柔軟に見直しながら、新たな挑戦の機会を提供する。
2 コーチング ・業務で直面した課題について、社員自身に解決策を考えさせ、必要な情報を提供しながら思考力を伸ばす。
・意思決定の場面で、社員が自分で選択肢を比較し、最適な判断を下せるようにサポートする。
・振り返りの時間を設け、業務の結果やプロセスについて問いかけ、自己分析と改善策を導き出せるよう促す。
3 フィードバック ・適宜プロジェクトの振り返りを行い、良かった点や改善点を具体的に伝え、次に活かせるアドバイスをする。
・社員が自ら業務を振り返り、課題や改善点を見つけられるように、フィードバックの際に質問を投げかけ考えさせる。
・定期的に社員の進捗や成果を評価し、目標達成度を伝えるとともに、さらなる成長のための具体的なアクションを示す。
4 ティーチング ・重要な業務やプロジェクトを任せる前に、実際の進め方や意思決定の手法を指導する。
・業務の効率化を図るために、必要なツールやリソースの使い方を分かりやすく教える。
・新しい課題に取り組む際に、基礎的な理論や実践的なアプローチを伝え、社員が自立して実行できるよう支援する。
5 成長環境の形成 ・チーム内で意見やアイデアを自由に共有できる、オープンなコミュニケーション環境を整える。
・失敗を恐れず挑戦できる雰囲気を作り失敗から学ぶ機会を提供する。
・スキルアップや新しい分野の学習を推奨し、必要なリソースやサポートを提供する。
・社員の適性を見極め、得意分野や興味を活かせる業務を担当させ、モチベーションを引き出す。

自ら考え行動できる段階では、自律的に業務を遂行し、周囲にも良い影響を与えられる人材に成長させるための育成が必要です。

現場の育成力に必要な5つの要素は、育成のフェーズによって具体的な行動が変わります。育成者のフェーズに合わせて、優先すべき要素を意識し、成長を促すためのサポートを行いましょう。

なお、フェーズ別の育成情報をまとめたシートは、下記からダウンロードいただけます。
公開中:現場育成の迷いを減らす【現場育成サポートシート
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3)現場の育成力を高めるための行動プロセス

現場の育成力を高めるための行動プロセスは以下の通りです。

これらのプロセスを順に実行することで、育成目標を達成し、持続的に効果的な育成活動を実現できます。具体的に解説します。

①人事が現状の育成力と課題を把握する

育成力を向上させるための最初のステップは、現状の課題を正確に把握することです。具体的な問題を理解することで、効果的な育成活動を進めることができます

例えば、若手社員が仕事を進めるのに困難を感じていたり主体性が欠けている場合、育成者のティーチングやフィードバックが不十分な可能性があります。
育成担当者がフィードバックの仕方がわからない、という漠然とした不安を抱えている場合は、フィードバックの仕方を学んでもらう場が必要かもしれません。

現場からの相談内容やアンケート、ヒアリングを通じて、課題を洗い出し、優先順位をつけることが必要です。

アンケートやヒアリングの実施例

アンケートやヒアリングは、育成者と育成を受ける社員に対して行います。両者で感じている課題やニーズは異なる場合があるためです。
確認する内容は5つの要素(期待する姿と育成計画の設計、ティーチング、フィードバック、コーチング、成長環境の形成)に沿ったものです。

【育成者向け内容例】
●期待する姿と育成計画の設計
・新入社員に対し期待する姿を具体的に伝えていますか。その内容を記載してください。
・育成計画をどのように設計していますか?

●ティーチング
・ティーチングに使っている時間は、1日どのくらいですか?
・新入社員が理解できているかをどのように確認していますか?

●フィードバック
・フィードバックをどのくらいの頻度で行っていますか?
・フィードバックが効果的だったと感じたエピソードを教えてください。

●コーチング
・最近コーチングを行なったテーマを教えてください。
・コーチングによる変容を感じますか?

●成長環境の形成
・失敗を受け入れる環境づくりをどのように作りましたか?
・チーム内でのコミュニケーションを活発にするために、どのような取り組みを行っていますか?

【育成を受けている社員向け内容例】
●期待する姿と育成計画の設計
・期待されている役割や目標を明確に理解していますか?その内容を記載してください。
・目標に向けて進捗を確認する場が設けられていますか?

●ティーチング
・指導内容は具体的で分かりやすいですか?
・わかりづらかったり指導が不十分だと感じる点があれば教えてください。

●フィードバック
・上司や先輩からフィードバックをどのくらい受けていますか?
・どのようなフィードバックをもっと欲しいと感じていますか?

●コーチング
・最近コーチングを受けての気づきを教えてください。
・コーチングに関して改善してほしい点があれば教えてください。

●成長環境の形成
・職場の環境は、安心して挑戦できると感じますか?
・より仕事をしやすくするために職場環境についてのリクエストはありますか?

3ヶ月に一度など、定期的に実施できるタイミングを設定すると良いでしょう。

現場からの相談内容やアンケート、ヒアリングから、多く出てきたキーワードや、リスク・緊急度の高いものなどの軸を定めて優先順位をつけます。

これにより、現状の課題を正確に把握し、優先すべき課題が明確になります。

②人事が新入社員・若手社員の明確な育成目標を設定する

育成活動を効果的に進めるためには、具体的で明確な目標を設定することが不可欠です。目標が不明確だと、方向性を失い、育成活動が効果を上げにくくなります。

目標は、短期的なものから長期的なものまでを考慮して設定します。目標の難易度は「職場環境や業務内容、社員の特性」に合わせて調整が必要ですが、以下の基準を参考にすると設定しやすくなります。

【目標の目安】
配属前の目標
知識レベル:基本的な用語や業務フローが説明できる。
実務準備:ツールやシステムの操作を一通り試し、操作に慣れる。

配属直後の目標
知識レベル:業務フローを理解し、関連するルールや手順を説明できる。
実務準備:ツールやシステムを使い、先輩の指導のもとで簡単な業務をサポートできる。

半年後の目標
知識レベル:自分が担当する業務の全体像を把握し、手順通りに進められる。
実務準備:ミスがあっても自力で修正できるレベルに到達。

1年後の目標
知識レベル:業務全体を見渡し、自分なりに考えて行動できる。
実務準備:新たな課題にも積極的に取り組み、業務の進め方を他の社員に説明できる。

配属前の目標 業務に関連する基本的な知識やシステムの使い方を学び、スムーズに業務に取り組める準備を整える
配属直後の目標 業務フローを理解し、必要なツールやシステムを使いこなし、業務をサポートできるレベルになる
半年後の目標 与えられた業務を周囲の力を借りながら期限内に完了させ、基本的な業務を任せられるようになる
1年後の目標 自分の業務に対して主体的に改善案を出し、周囲にポジティブな影響を与えている

明確な目標設定により、育成活動が方向性を持って進み、成果が見えやすくなります。また、成果の評価もしやすくなります。

③人事が育成力を磨く研修を実施する

課題を把握し、新入社員や若手社員に期待する姿が明確になったら、それらに必要な育成力を強化する場として研修を実施することが必要です。成長を促すために必要なスキルは、学ぶことで身につけることができます

効果的な育成担当者・OJTトレーナー研修には、以下の3つの要素が欠かせません。

●育成の意義の再確認
育成が組織全体や自身の成長にどうつながるのかを考える場を設けます。育成の重要性、そしてその育成を任されている自身の役割の必要性を認識できるようにしましょう。
どんなに知識・スキルを学んでも、育成担当者が「育てる意義」を見出せていなければ、育成の高い効果は期待できないため、非常に重要です。

●具体的な育成スキルの習得
基本的な育成スキルである、ティーチング、フィードバック、コーチング、目標の設定方法を知識として理解できるようにします。各スキルをどのような場面で活用すれば効果的なのかを学び、実際の業務で適切に使い分けられるようにします。

●学びの実践
学んだスキルを職場で実践できるようになることが最終ゴールです。そのため、研修内でロールプレイングやシミュレーションを行い、実務での活用をイメージできるようにします。
アーティエンスの育成担当者・OJTトレーナー研修でも、実践の時間を多く取っており、実務に活かしやすくしています。

育成力は学ぶことで確実に身につけることができます。課題や期待する姿に必要な要素を踏まえ、実践を通して学べる内容であるものを選ぶことをおすすめします。

④現場社員が学びを実践する

学んだことを活かします。働きやすい環境や関係性構築から始めると、行いやすいでしょう。働きやすい環境や良好な関係性は、社員のパフォーマンス向上やチームワークの礎となります。育成のフェーズに合わせて具体的に行動していきましょう。

導入期

・職場のルールや文化を丁寧に説明する。
・業務に必要なツールや設備の使い方を教える。
・こまめな声掛けを行い、社員の不安や疑問に対応する。
・定期的な進捗確認を行い、問題点や不安を早期に把握する。

習熟期

・チーム内での役割を与え積極的にコミュニケーションをとる機会を提供する。
・進捗や成果に対し、感謝の気持ちやポジティブなフィードバックを伝え、安心感を与える
・社員が失敗しても責められることなく、改善策を一緒に考え、挑戦しやすい環境を提供する。

自立期

・チーム内で意見やアイデアを自由に共有できるオープンなコミュニケーション環境を作る。
・ミスを恐れず挑戦できる雰囲気を醸成し、失敗から学ぶ機会を提供する。
・自己成長のためにスキルアップや新しい分野の学習を推奨し、リソースやサポートを提供する。
・社員の適性を見極め、得意分野や興味を活かせる業務を担当させ、モチベーションを引き出す。

働きやすい環境や関係性を作ることで、育成の土台を作れます。
続いて、各月ごとの目指す姿を設定し、その姿になるためにティーチング、フィードバック、コーチングをどのように活用するかを具体化します

具体例

⑤現場社員と人事で育成状態を確認し、改善する

現場社員と人事で定期的に育成状態を確認し、改善し続けることが重要です。必要に応じて育成計画を調整したり、育成者のフォローを行い、育成力を高めるためです。
確認の手段として、人事と育成担当者での定期的な面談を行うと良いでしょう。具体的な進め方は以下の通りです。

●事前準備
育成担当者に、育成状況や新入社員・若手社員の課題、良かった点を整理してもらいます。フォーマットを用意すると育成者が作業しやすくなります。

●面談内容
整理してもらった資料をもとに質問を通じて状況を把握します。

●フィードバックとアクション決定
課題に対する具体的な対策を検討し、次のアクションを決めたり、育成計画の調整を行います。

【具体的な進め方 例】
新入社員:Aさん
育成担当:Bさん

●事前準備
Aさんの良かった点:
業務の基本的な流れは理解し、簡単な業務はスムーズにこなせるようになっている。

Aさんの課題:
指示された業務はできるが、業務の背景や目的を考えずに進めることが多く、主体性が不足している。

育成者としての悩み:
「もう少し自分で考えて動いてほしいが、どう促せばよいかわからない」

●人事と育成者での面談

・新入社員・若手社員は現在どの段階にいるか?
→育成担当者Bさん:「業務の基本はできているが、自発的な行動がまだ少ない。」

・どのスキルが伸びているか?逆に、どのスキルに課題を感じるか?
→育成担当者Bさん:「業務の手順はしっかり覚えているが、仕事の目的を理解しないまま進めることが多く、細かい指示がないと動けない状態。」

・育成担当者が困っていることはあるか?(指導方法、時間の確保など)
→ 育成担当者Bさん:「できるだけ考えさせるようにしているが、結局こちらが細かく指示してしまう。」

・会社側からどのようなサポートがあると育成が進みやすいか?
→ 育成担当者Bさん:「主体性を育てる指導方法について学べる機会があると助かる。」

●フィードバックとアクション決定

育成担当者Bさん向けの支援
・「指示ではなく質問をする」スタイルのコーチング手法を学べる本を支給する

新入社員Aさんへの働きかけ
・自ら考えて提案できるように、「あなたはどう思う?」と必ず聞き、自分なりの考えや仮説がない場合は考えてきてもらうようにする

定期的な振り返りと改善により、育成活動の質が向上し、社員の持続的な成長を支えることができます。これらの5つのプロセスを実行することで、現場の育成力を効果的に高めることができます。

4)【事例】研修による育成力強化で新入社員が成長し、受注件数が前年比5倍へ

研修によって育成力を強化したことで新入社員が成長し、受注件数が前年比5倍に向上し、さらに育成文化が定着した事例を紹介します。

項目< 詳細
業種 不動産
企業規模 100名程度
実施方法/td> 個社ワークショップ、新入社員研修育成担当者・OJTトレーナー研修
新入社員OJTトレーナー合同フォロー研修

背景・課題

業績が好調で新入社員の採用を進めたところ、売上が伸び悩んでいました。原因は新入社員の成果が出ていないことでした。結果、現場の負担が増加し、現場社員の不満が高まりました。
また、組織化を進めるために人事コンサルティング会社を導入し、パッケージ製品の人事制度を導入しましたが、これが逆に「当事者意識」の低下を招き、組織内の協力体制が崩れてしまいました。
成果が上がらない悪循環が生じ、組織全体の業績が悪くなっている状態でした。

実施内容

問題解決のために、以下のような対策を実施しました。

OJTトレーナーの指導力と意識の強化

育成担当者・OJTトレーナー研修を実施し、OJTトレーナーのコミットメントを高めて、責任感を持たせ、積極的に新入社員の育成に関わろうとするように促しました。

また、育成経験を3ヶ月ほど積んだタイミングで「振り返り研修」を実施しました。振り返り研修では、育成担当者としての成長実感の醸成や、新入社員との関係性強化を図りました。

新入社員へのアプローチ

新入社員研修を通して「自組織での成長イメージの具体化」「社会人への切り替え」・「コスト意識」・「ビジネススキル」を伝えました。
また、実務経験を3ヶ月ほど積んだタイミングで「トレーナーとの合同研修」を実施し、成長実感の醸成や上司・トレーナーとの関係性強化を図りました。

OJTトレーナー・新入社員へ実施した研修スケジュールは以下の通りです。

実施月 対象者 研修内容
4月 トレーナー 育成担当者・OJTトレーナー研修
4月 新入社員 新入社員研修
ー自組織での成長イメージの具体化
社会人の自覚研修
目標達成・コスト意識研修
ビジネススキル研修
7月 トレーナー
新入社員
新入社員OJTトレーナー合同フォロー研修

結果

実施後、以下の成果が得られました。

新入社員の受注件数が5倍に増加

上司やOJTトレーナーによる新入社員へのフォローが強化され、新入社員からの報連相も増加。配属から4ヶ月後には、新入社員の受注件数が前年比5倍となりました。

育成風土の構築

人事責任者や経営陣が、社員間のコミュニケーションや報連相の重要性を理解し、育成文化の重要性を再認識。毎月の勉強会が実施されるようになり、組織全体で育成力を強化する土台が作られました

この事例のように、育成力を強化することで、ポジティブな影響を生み出せます。

5)まとめ・現場の育成力を高めるならアーティエンス

本コラムでは、現場の育成力を構成する5つの要素と、その具体的な活かし方、さらに、現場の育成力を高めるための行動プロセスを解説しました。

現場の育成力を構成する5つの要素は、育成のフェーズによって具体的な行動が変わります。育成者のフェーズに合わせて、優先すべき要素を意識し、成長を促すためのサポートを行いましょう。現場の育成力を高めるための行動プロセスをもとに、準備して実行することで、現場の育成力を効果的に高められます。

ただ、実際の現場では「何から手をつけるべきか分からない」「育成の仕組みを整えたいが手が回らない」等の悩みも多いでしょう。そのような際はぜひお気軽にご相談ください

アーティエンスでは、現場の育成力を高めるための研修やサポートを提供しています。貴社の状況をヒアリングし、最適な育成の仕組みや具体的な実施方法をご提案いたします。

育成の仕組みを整えることで、新入社員や若手社員の成長が加速し、現場の負担も軽減されます。育成を「負担」ではなく「未来への投資」に変えるために、できることから始めてみましょう。