中小企業は行動に紐づくビジョンを創ろう。創り方・展開方法を例で解説

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・強力な経営理念を持つ企業は、持たない企業と比較して、3年間で収益成長が約2倍
(参考)The Business Case for Purpose” by Ernst & Young (EY) and the Harvard Business Review Analytic Services

・明確な経営理念を持つ企業は、従業員エンゲージメントが平均で30%向上する
(参考)Purpose-Driven Companies Evolve Faster” by Deloitte

上記の調査結果から分かるように、ビジョン(経営理念)は組織に素晴らしい影響を与えます。ただこんなお話も、よく聞きます。

経営者:「ビジョン(経営理念)を創っても意味があるの?効果が分からない」
現場社員:「ビジョン(経営理念)って何だっけ?覚えてないよね」

これでは意味がありませんし、ビジョン(経営理念)に対してネガティブなイメージを持ちます。
では、調査結果のような良い影響を与えるビジョンとはどのように創られるのでしょうか
また、創ったあとに、どのように展開すると良いのでしょうか。

本コラムでは、中小企業にとってのよいビジョン(経営理念)とは何かと、中小企業がよいビジョンを創っていくための方法をお伝えします。

(注) 本コラムでは、「ビジョン=経営理念」という定義で説明します。

執筆者プロフィール
迫間 智彦
X:@tohaza_atc youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

専門性:ファシリテーター管理職組織開発・組織変革

1. 中小企業は「行動に紐づくビジョン」を創ろう|例で解説

中小企業のよいビジョンとは、行動に紐づくものです。
行動に紐づかないビジョンは、戦略・戦術との連動性が曖昧になったり、人によって意思決定が異なるなど、現場での企業活動に悪影響を及ぼしてしまいます。

行動できるビジョンど行動できないビジョンの例を、下記に挙げます。

・徹底的に顧客満足を追求した新商品を創り続ける(行動できるビジョン)
クライアントファーストの徹底(行動できないビジョン)

行動できるビジョンを掲げた社員は、以下のような行動を起こすことができます。

・戦略 :
顕在ニーズだけではなく潜在ニーズまで考え抜いた戦略になる
・戦術 :
市場調査を丁寧に行い、その上で顧客満足を追求する商品開発のバリューチェーンを行う
・意思決定:
経営者の意思決定も現場での意思決定も、顧客満足を追求する商品であることが大前提になる
・企業活動:
日々の企業活動において「本当に顧客満足を考えた商品か?対応か?」というフィードバックがチームの中で行われる

「行動できないビジョン」は、人によって解釈が異なり、認識のずれが起きます。行動に紐づくビジョンを創ることで、中小企業の活動によい影響を与えます。

次の章では、中小企業が、ビジョンを創っていく手順をお伝えします。

(参考)2種類のビジョン│信奉理論と、使用理論
ビジョンには、2つの種類があります。信奉理論と、使用理論です。

・信奉理論:哲学や価値観を表したもの
・使用理論:実際の意思決定や行動につながるもの

先ほど出した事例が、まさに信奉理論と使用理論の話です。

信奉理論 : クライアントファーストの徹底
使用理論 : 徹底的に顧客満足を追求した新商品を創り続ける

どちらがいい悪いはありませんが、両方のメリット・デメリットを考えると、中小企業には使用理論をお勧めします

【メリット・デメリット】
信奉理論:

対話を通じて育まれ、組織の強い一体感を醸成します。しかし、実際の行動や意思決定に移すことは難しく、時には組織内でゆがんだ価値観が形成される可能性があります。

使用理論:
意思決定や行動が容易ですが、枠組みが作られるため、発展性が制限されることがあります。また、臨機応変な対応ができないことがあります。

中小企業に使用理論を薦める理由は、下記です。

・中小企業は、発展性よりも、今を生き残ることが重要視されるケースが多い。また、戦略の質を上げれば現場までの距離が近く実行がスムーズなので、発展性が担保されやすい
・中小企業の場合は、使用理論に基づいた行動指針を作ることで、臨機応変さも担保できる

2. 中小企業が、ビジョンを創っていくには

中小企業が、ビジョンを創っていくには、3つの方法があります。

①代表が一人で創る
②経営幹部が作る
③社員全員で創る
メリット・デメリットを踏まえて、自組織にあった方法でビジョンを創っていきましょう。

2-1. 代表が一人で創る

代表が一人で創るというケースは、代表の自身の想いが強く反映されるのが特徴です。スピードも速くなります。
ただし、ビジョンを落とすという文脈が強くなり、ビジョンを育むのに時間がかかります。独善的になるケースもあります。

一部の人が決めたビジョンを現場に展開する際には、右回りのサイクルに陥りがちです。

具体的な創り方としては、経営者とコンサルタント・コーチで創ったり、ビジョンを創る公開講座に参加して創る場合があります。
本を読みながら、ご自身で創る方もいます。

(参考)ビジョン浸透は、NG
ビジョン浸透は、NGです。なぜならビジョンを落とすいう文脈になるためです。
ビジョンを落とすと、人は受け身になります。ビジョンに対して、自分事化しません。
ビジョンを落とそうとするではなく、育んでいく考えが必要です。
ビジョンの育み方は、「3. 中小企業でビジョンを育む方法」でお伝えします。

2-2. 経営幹部が創る

経営幹部が創るというケースです。幹部社員が当事者意識を持ち、横連携が強化されるというメリットがあります。

デメリットとしては、「2-1. 代表が一人で創る」と同様に、ビジョンを落とすという文脈が強くなり、ビジョンを育むのに時間がかかります。経営幹部にとって都合のいい経営理念になってしまい、実際にお客様と接点のある社員の考えが反映されづらいため、社員や顧客が共感しづらい企業理念になってしまう可能性もあります。

具体的な作り方としては、合宿研修などを行い、経営理念策定プロジェクトとして創っていくケースが多いです。早いものだと数週間、時間をかけるものは一年間程度のものもあります。

下記は、経営幹部で創ったビジョンの例です。

アプリシエティブインクワイアリ(※)という手法を用いて、「経営者と次世代リーダー、および次世代リーダー同士の関係の質を高めること」と、「共有ビジョンの策定することで、自組織がどこに向かうかを明確にして幹部社員の意思を統一する」の2つにアプローチしていきました。

ビジョン策定の研修後には、下記のような効果見られました。

・部次長らによる合同合宿
・合宿後の、メンバーも巻き込んだボーリング大会
・部門間の活性化
・新サービスの企画立案の増加

より詳しい内容を知りたい方は、下記コラムをご覧ください。
事例あり【経営者向け研修】の2つの目的と5つの内容をご紹介

(参考) アプリシエイティブ・インクワイアリー とは
ケース・ウエスタン・リザーブ大学のデービッド・クーパーライダー教授、タオス・インスティチュートのダイアナ・ホイットニー氏により、1987年に提唱された「組織の真価を肯定的な質問によって発見し、可能性を拡張させるプロセス」。

2-3. 社員全員で創る

社員全員で創るというケースです。創りながらもビジョンを育む(浸透)ことが可能です。他の方法より、コミットが高くなります。

ただ時間がかかるケースが多いです。また適切なコンサルタントやファシリテーターがいない場合は、やらされ感になるケースもあります。

具体的な作り方としては、こちらも合宿研修などを行い、経営理念策定プロジェクトとして創っていくケースが多いです。数か月間から一年間程度のものもあります。

下記のように進めていくことが多いです。

①プロジェクトの立ち上げと、チームメンバーの選任
プロジェクトチームによる企画の考察
プロジェクトチームが中心になって、経営理念の策定
④全体でのシェア
プロジェクトチームの振り返りと、今後の施策の調整
※ ③で全社員を巻き込んでいきます。

注意点は、プロジェクトメンバーは、可能な限り自組織の縮図になるように組むことです。

ハイパフォーマーばかり集めてしまうと、他の社員から「彼らは特別だから」と見られてしまい、分断が起きます。
プロジェクトメンバーは、性別・年齢・国籍・役職・評価などが組織の縮図になるようにするといいでしょう。

また、さまざまな人が集まる場では、ファシリテーターを用意することをお薦めします。
「社員全員で創る」が機能すると、下記のような好循環の左回りのサイクルが起きます。


3章では、経営理念ができた後の育み方をお伝えします。

3. 中小企業でビジョンを育む方法

ビジョン策定後に、中小企業でビジョンを育む方法は、下記があります。

1.キックオフミーティングなどイベントで育む
2.会議で育む
3.目標設定で育む
4.オンボーディングで育む
5.研修・勉強会で育む

それぞれ説明していきます。
※ 自組織にあったものを選び、実施できるといいでしょう。過剰に行うと、メンバーが拒否反応を起こすことがあります。ビジョンを育むという文脈から、ビジョンを浸透するという文脈に変わってしまうことになりかねません。

3-1. キックオフミーティングなどイベントで育む

キックオフミーティングなどイベントで、ビジョンを育むことができます。普段と異なる場所でビジョンを育むことで、ビジョンと向き合うことできます。

例えば、キックオフミーティングで経営者に対してインタビューを行い、それをもとに社員同士で対話を行います。対話の後に、経営者に質問をしながら経営者と社員関係の立場を超えて、お互いが向き合い探求していきます。時には、経営理念が進化し、意味づけが変わっていくこともあります。

下記はキックオフミーティングでの風景です。

3-2. 会議で育む

会議でビジョンを育むことができます。日々の会議で、ビジョンを育む時間を設けるだけで、社員の意識は強化されます。

例えば、会議の中で、ビジョンに沿った行動へのポジティブフィードバックを行う時間を設けたり、会議の前にファシリテーターや司会者がビジョンを読み上げるだけでも変わります。

当社では、週次のミーティングでは始めに必ずビジョンの確認から入ります。
またプロジェクトビジョンを創るときにも必ず経営理念のビジョンを入れます。

3-3. 目標設定で育む

目標設定で、ビジョンを育むことができます。目標設定のシートの始めに、ビジョン(戦略も)を記載するだけで、チーム・自身の目標設定と連動していきます。

当社の目標設定シートをご紹介します。

3-4. オンボーディングで育む

オンボーディングで、ビジョンを育むことができます。オンボーディングで新しく入社するメンバー(新卒・中途問わず)に、自組織のビジョンを対話する時間を設けます。新しいメンバーとの対話で、既存メンバーもビジョンと向き合うことにもなります。

例えば、オンボーディングの際に、新しいメンバーが既存メンバーにインタビューをすることで、その人の役割や人柄に加えて、組織への想いや、想いと仕事との繋がりを理解することができます。既存メンバーも、インタビューを受け、内省・言語化することで、ビジョンと向き合うことができます。

当社の相互インタビューのシートを参考にしたい方はこちらからダウンロードしてください。
(参考)オンボーディングとは

※ 当社勉強会の資料(ダウンロード可能)より

3-5. 研修・勉強会の対話で育む

研修・勉強会で、ビジョンを育むことができます。新入社員研修・若手社員研修から、管理職研修や次世代リーダー研修などで、ビジョンを育むワークやセッションを設けるといいでしょう。

例えば、若手社員研修では、当事者意識・主体性を発揮するというテーマで、自組織のビジョンをどのようにとらえているかを対話したり、次世代リーダー研修ではビジョンと戦略の連動を考えるワークなどを行うことが可能です。

より詳しい内容は、下記コラムをご確認ください。

【若手社員研修】で主体性の発揮を促したい!知っておくべき4つのプロセス
【成功事例あり】次世代リーダー育成研修|おすすめの内容と効果を上げるプロセス解説

3-6. (参考)ビジョンを育む際のNG行動

ビジョンを育む際のNG行動としては、下記になります。

・クレドカード・ポスターを作成し、何も対応しない
・朝礼でビジョンの唱和するだけ

よくあるのが、「クレドカード・ポスターを作成」し、何もしないということがあります。
お金がかかるだけで、何の効果もありません。
また朝礼での唱和に関しても、やらされ感が生まれ受け身になり、自分事されにくいです。
これらの行動を行うことはお勧めしません。

まとめ│中小企業がビジョンを創るなら、アーティエンスがおすすめ

本コラムを通して、中小企業にって良いビジョンとは何か?そして創り方と育み方のイメージを持てたのではないでしょうか。

中小企業が良いビジョンを創り育めば、業績もよくなり、エンゲージメントも高まります。

ただし、その際はしっかりとしたビジョンを創り育むプロセスが必要です。昔ながらの右回転のビジョンの創り方や、ビジョン浸透というか考え方では、なかなかうまくいきません。

【ビジョン策定で失敗するパターン】

アーティエンスでは、ビジョン策定は左回転の方法を用いますし、すでにビジョンがある場合は育んでいく方法を知っています。

【ビジョン策定で成功するパターン】

自組織のビジョンに関して、お困りの方はぜひ当社までお問い合わせくださいませ。

最後になりますが、本コラムを通して、素晴らしいビジョンが策定され、育まれることを願っております。