HOMEコラム・レポート > 【8章 続・仕事の本質】

【8章 続・仕事の本質】

  • 新入社員向け
  • 育成・OJT
  • マネジメント

コラム :ある新入社員の成長記録


【8章 続・仕事の本質】

エースの堀江さんが、学生向けのイベントに参加できないという結論が出て2日。
いろいろ理由はあるようだけど、
僕自身がルール違反を犯してしまったことは、僕の心に重くのしかかっていた。

無理かもしれない…
それでも、僕は何とかあがきたかったし、
会社のためにも堀江さんをアサインしたかった。

堀江さんをアサインすることで、
採用に向けた学生の母集団形成は圧倒的に量も質も上がる、
それは誰もが感じていることだった。

これまでの経緯を中川さんに話した。
中川さんはうん、うんと頷きながら真摯に僕の話を聴いてくれた。

「そっかぁ…なかなかのビハインドだねぇ」

中川さんの言葉に、僕は置かれた状況の厳しさを改めて感じた。

「あんまり大きな声では言えないんだけどね…」

中川さんが少し声を落として内部事情を話してくれた。

実はTVに出演した結果、堀江さんに注目したのは学生や業界の人だけではなかった。
有能さが評価され、業界問わず堀江さんをヘッドハントようとする企業が後を絶たないらしい。

「堀江さんは有能な上に社内外から注目を集める存在だからさ、退職されると困るんだよね。
この件だけでなく、お子さんも生まれたみたいだし、

こういった状況だからこそ労働環境を整えたい、というのが山下部長の考えなんだと思う。
山下部長は製造の出身でしょ?しかも一時は労働組合の幹部もやっていたんだよね。

だから労働環境とかについても、考えがあるんだと思う。
”長時間労働が当たり前”のこの会社の体制については、日頃から問題意識もあったんじゃないかな?」

そうだったんだ…

僕は、山下部長について勘違いしていたかもしれない。
山下部長は、何も堀江さんの問題だけを指しているわけじゃない、
社内の体制や文化そのものに対しての考えがあったんだ。

それは大事だし、僕も当事者である以上、何とかしたい気持ちはあるんだけど…
でもなぁ…それでも堀江さんはアサインしたい!
うーーん…

「あの、中川さん、ちょっとだけいいですか?」

後方から遠慮がちに声を掛けてきたのは、平井だった。
そっか、今は中川さんがトレーナーだったな。

「うん、いいよ。こっちも平井ちゃんの頭を借りたいと思ってたところ」

「私の頭??」

確かに、平井なら僕にはないアイディアを出してくれるかも…

平井の用件はすぐに終わり、僕と中川さんの環に加わってくれた。
僕は手短に、今回の件を話した。
イベントに参加してもらう同期2名のうち、1名は平井だから、案件の状況は分かってくれている。

「うーん、学生としては、確かに堀江さんには来てほしいよねぇ」

平井は問題を他人事にしない。こういうところ、見習おう。
しばし沈黙があった後、口火を切ったのははやり平井だった。ぽつりと一言。

「会場に来てもらわなきゃいけないのかなぁ」

ん?どういうこと?

「イベントってさ、何回かあるでしょ?その度に社外のイベント会場に来て、イベントに参加して、
学生の質問に対応してって、確かに結構大変だし、拘束時間も長いよね?」

ま、確かに。

「ねぇ…例えばビデオレターとか、ダメなのかな?」

ビデオレター???

「お、さすが平井ちゃん!確かにその手はあるね!!」

ビデオレター?

ビデオレター!!!

僕は、一気に目の前が明るくなるのを感じた。

そして、先週末に出席した従兄の結婚披露宴を思い出していた。

新郎である従兄の幼馴染は、現在海外に赴任しているとのことで、
ビデオレターでメッセージが届けられたのだ。
サプライズのメッセージに新郎は号泣、多くの参加者ももらい泣きをしていた。

確かに、ビデオレターなら事前にオフィスで少し時間をもらえれば用意できる!
堀江さんの負担も少なく、堀江さんに会いたいと思っている学生の期待も裏切らない。

「どうせなら、たくさんのメンバーに参加してもらえば?例えば山下部長とか、さ」

中川さんは悪戯っぽくはにかんで、またこっそり教えてくれた。

「山下部長って、実は結構こういうイベント事、好きだと思うよ。
どうせなら山下部長も巻き込んじゃえばいいじゃん」

「それ、いい!山下部長みたいな、ちょっとお堅い感じの人がいるのって、
学生にとってはむしろ安心材料かも」

平井もノリノリだ。
うん、確かに、確かに、これ、いけそうだ!
僕は興奮してきた。

唐木田さんと佐々木マネージャーに早く相談したい!
中川さんと平井に御礼を言って、僕は大急ぎでデスクに戻った。

早速、僕は唐木田さんと佐々木マネージャーに、ビデオレターの件を話した。
僕の話を聴く二人の表情は、段々明るくなっていった。

「ちょっとぉ、岩もっち、どうした!?冴えてるねぇ」

唐木田さんは冗談半分、本気半分に賞賛してくれた。

「そうだな、そうだな、うん、たぶんいけるな、それ」

佐々木マネージャーもノッてきた。

「であれば、早いほうがいいな。岩本、すぐに今の話をまとめられるか?
ワード1枚でいい、できれば今日中に山下部長に話そう」

「はいっ!」

約2時間後、会議室に入ってきた山下部長は、最初こそ怪訝な顔をしていたものの、
こちらの企画を聴くと、すぐに柔和な表情になった。

「そうだな、それなら堀江の負担も少なそうだし、学生さんも喜ぶだろうね」

やった!

「ただ、本人の意向は確認しておきたい。ちょっと待ってよ」

そういうや否や、山下部長は携帯電話を取り出して、
どこかに電話をし始めた。相手は堀江さんらしい。

「あなたの意向は尊重したいと思っているから、企画側も交えて直接話そう。
結論は早く出したほうがいいと思うから、忙しいところ悪いが、
ちょっと今から来てもらえないかな?」

山下部長はそういって、なんと堀江さんを会議室に呼んでくれた。
思わぬ展開に、僕は興奮していた。

間もなく現れた堀江さんに対し、山下部長が手短に企画を話した。そして

「岩本くん、君からも熱い想いをどうぞ」

にっこりとほほ笑んで、僕に話す機会をくれた。
僕は、突っ走ってしまったことを詫びたうえで、
どうしても堀江さんに参画して欲しいことを改めて伝えた。

我ながら熱いメッセージになったと思う。
静かに聴いていた堀江さんは、僕が話し終わるのを待って、

「うん、ぜひに」

と受諾の返事をくれた。

やった、やった、やった!
入社して8カ月、僕にとって一番うれしい出来事だった。

忙しい堀江さんには、追って企画書の送付や日程調整をさせてもらうことを伝えた。

「期待を裏切らないように頑張るよ」

堀江さんは笑顔で退室していった。

この後、山下部長から聞いた話に、僕は大いに反省することになる。

実は、今回の件を「やらない」と最終判断をしたのは堀江さん本人だったそうだ。

マネージャーでもある堀江さんは、自分が頻繁に抜けることで業務が停滞したり、
メンバーに迷惑がかかることを懸念したらしい。
よく考えれば当たり前のことだった。

そんなことまで考えられていなかった自分の視野の狭さ、
そして短絡的に山下部長を悪者扱いしてしまったことが恥ずかしかった。

最後に、山下部長にもビデオレターに参画して欲しいことを伝えた。

「もっと若手のほうがいいんじゃないの?」

と戸惑っていた部長も、僕たちに説得されるうち、その気になってきたらしい。

「ベンチャー企業でも、安定か…最近の新人はそういうものなのかな。
ま、私がいることでそういう風に捉えてもらえるなら、協力できることもあるのかな」

最後は、

「私みたいな素人は、リハーサルでもしないとな」

と少し楽しそうに退室していった。
佐々木マネージャー、唐木田さん、僕。三人でハイタッチしたのは言うまでもない。

そして、イベント当日。
業務シミュレーションや、各社員の話の後に、ビデオレターを流した。

山下部長、堀江さんのほかにも、多彩なメンバー3人がビデオレターに協力してくれた。
会場は大いに盛り上がり、参加した学生たちは一様に満足そうだった。

そんなイベントのアンケートには、驚くべき結果が出ていた。
予想に反して、山下部長の名前がものすごく多く記載されていたのだ。

「山下部長の率直なお話に感動した」
「山下部長のような立場の方のメッセージも聴けてよかった」
「山下部長のような方がいらっしゃるのは、会社として心強い」

そんな、学生の心を動かした山下部長のメッセージ。

「東京トータルサービスはまだ若い会社です。
正直に申し上げると、組織として未熟なところも、未完成なところもあると思います。

でも、この状況でよい、満足だと思っている社員は誰もいません。私自身もその一人です。
発展途上を支えたい、より良くしたいと思って、私はこの会社に入りました。

たとえ少しずつでも、私はより良い環境やワークライフバランスを整えるために全力を尽くします。
安定していることは大事です。私もそう思って、大きな資本を持つ企業に入社しました。

でも、25年間働いて気づきました。整っていることだけが成長できる環境ではない、
足りない状況をより良くしていくプロセスにこそ、本当の成長機会があるのだと思います。

おかげさまで、この会社はお仕事のご依頼は後を絶ちません。優秀な先輩や役員もいます。
そういった意味で、仕事での成長は十二分にあるでしょう。

でも、それ以外のところ、組織を作ること、文化や風土を生み出すこと、
そんな取り組みの中でも大きな成長が果たせると思います。

同じ志をもって、一緒に会社を作ってくれる方を心から歓迎します」

実のところ、学生以上に僕は感動していた。
思わず目頭が熱くなったが、他の社員たちも同じだったと思う。

翌日、僕からの御礼メールに対する、山下部長の返信にはこんなことが記載されていた。

「ビジネスには答えはないと思います。

でも、現状を打開する手段はきっとある、私はそう信じて仕事をしています。

プライドをもってコミットメントすること。
既存の方法だけに捉われない意識を持つこと。
より良くするために諦めずに行動すること。

この積み重ねが、結果を生み、やりがいを生むのだと思います。

そして、これが仕事の本質だと私は思っています。

今回の件で、岩本さんは仕事の本質に触れたのではないでしょうか?」

仕事の本質。

そう、たぶん、僕はその末端に触れたのだと思う。
 
 
続く…


マネジメントの体験セミナーのご案内

アーティエンスでは、社員教育・研修をご検討の経営者様・人事ご担当者様向けに体験型の公開セミナーを実施しております。ご興味のある方は是非お問い合わせください。

“なぜ、自社の社員が辞めていくの??”   離職を防ぐ! 若手社員の定着と成長セミナー 無料

@渋谷「フォーラム8」(各線渋谷駅から徒歩4分):8月31日(木)【セミナー時間】14:00~15:30  【質疑応答・個別相談】15:30~16:00
  • コミュニケーション
  • 育成・OJT
  • マネジメント
  • 組織開発支援
  • その他

3年以内に退職される、「早期離職者」はそれぞれのストーリーや想いを持っています。 そこにはSNSにも発信されない、言語化されていない、 離職に繋がる現代の、“イマドキ”の、若手のリアリティがあります。 本セミナーでは、株式会社カイラボの代表であり、200名に近い早期離職者と対面しインタビューを行ってきた井上氏をお迎えし、早期離職を防止し、“組織への定着”と、“若手の成長”の両立ポイントを、他社事例などを交えて具体的にご紹介いたします。

企業の「成果」と「成長」を考え抜くマネジメントセミナー 無料

@セミナールーム「フォーラム8」(各線渋谷駅から徒歩4分) :2017/9/26 (火) 10:00-18:00
  • コミュニケーション
  • リーダー
  • マネジメント
  • 組織開発支援
  • その他

現代社会は VUCA WORLD と言われています。 組織・チーム運営を取り巻く状況の複雑性が高まり、予測不能な激しい変化の波を受ける社会──それがVUCA WORLDです。 そのような環境に対応していく為には、組織・チームは『管理する・される』の関係だけではなく、『自ら学び、考えて行動し共創していく』関係にしていくことが求められ、そして管理職・マネージャーと呼ばれる人たちは、社員ひとりひとりが自己組織化し、リーダーシップを取っていける為の働きかけを行っていく必要があります。 本セミナーでは、今日の組織・職場で管理職・マネージャーが求められる働き方、組織力の高め方を学んでいきます。

メルマガ登録受付中!無料セミナー・人事お役立ち情報を毎週お届け!

注目セミナーのご案内

“なぜ、自社の社員が辞めていくの??”   離職を防ぐ! 若手社員の定着と成長セミナー 無料

@渋谷「フォーラム8」(各線渋谷駅から徒歩4分):8月31日(木)【セミナー時間】14:00~15:30  【質疑応答・個別相談】15:30~16:00
  • コミュニケーション
  • 育成・OJT
  • マネジメント
  • 組織開発支援
  • その他

3年以内に退職される、「早期離職者」はそれぞれのストーリーや想いを持っています。 そこにはSNSにも発信されない、言語化されていない、 離職に繋がる現代の、“イマドキ”の、若手のリアリティがあります。 本セミナーでは、株式会社カイラボの代表であり、200名に近い早期離職者と対面しインタビューを行ってきた井上氏をお迎えし、早期離職を防止し、“組織への定着”と、“若手の成長”の両立ポイントを、他社事例などを交えて具体的にご紹介いたします。

"【8章 続・仕事の本質】"に関連するサービス

HOMEコラム・レポート > 【8章 続・仕事の本質】