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~岩本絢太郎の日常~【6章 トラブルその2】

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コラム :ある新入社員の成長記録


【6章 トラブルその2】

1年間の修業期間も折り返しに入った10月17日、僕は人事部に異動になった。
新入社員としては異例らしい。なんでなんだろう…

「岩本さん、あの、できました!」

ぼぉっと、そんなことを考えていた時に声を掛けられた。

「あ、はい」

インターンの岸さんだった。

TTSは企業規模の割に新卒採用人数が多いため、インターン制度に力を入れている。
今も、4つの部署で計8名の学生インターンが頑張っている。
人事部には岸さんと他2人。
岸さんは名門J大学の仏語科で、前に一緒の部署で修行をしていた平井の後輩にあたる女性。
やっぱりすごく優秀だけど、平井とはだいぶ違うタイプみたい。

差し出されたパワーポイントの資料を受け取る。

なにこれ、すっご…

社内研修のアンケート集計をお願いして、まだ1時間足らず。
レイアウトを考えるところからお願いしてるんだから、2時間くらいはかかるよなぁ…と思っていたのに、なにこれ、もう完成してるじゃん・・・

「…なんか、すごいね…」

思わず本音が漏れる。

「え?どういう意味ですか?なんか変ですか?」

謙虚な彼女は(このあたりが平井とは違う)、自分の能力の高さに気づいていないようだった。

「いやいや、そうじゃないよ。すごくよくできてると思う」

「ほんとですか!」

「うん…」

そんな他愛もないやりとりをしながら、僕は変な汗が出てきた。
社員としては、何か指摘しなきゃ…でも、非の打ちどころのないように見える資料を手にして、僕はフィードバックポイントを見つけられずにいた。

「どう?元気でやってる?」

資料をのぞき込む僕たちに、声がかかった。藤沢GMだった。

「きゃっ…」

岸さんから小さな悲鳴が聞こえた。

???

慌てて起立する岸さん。つられて僕も立った。

ん???

「はい…何とか…」

小さな声で答えた岸さんの顔は紅潮していた。

ふーーーん…

笑顔で話掛ける藤沢GMを見る岸さんの目は、キッラキラしていて少女マンガみたいになっている。いくら鈍感な僕でも、そりゃわかるよって、くらいあからさまな感じだ。

ふーーーん…

「ちょっと見せて」

僕の手にあった、資料が藤沢GMに渡る。

「お、すごいね…うん、よくできてるなぁ。どれくらいの時間でやったの?1時間?それは相当すごいよ。もう即戦力だね。ありがとう」

「え、いえ、あの、そんな、まだまだです!」

「あえて一つだけ、フィードバックすると…」

「あ、はいっ!」

「各グラフに総括的なメッセージがあるとより分かりやすいかもね」

「総括的なメッセージ…?」

「うん、その辺は岩本に聞けばわかるから」

「…あ…そうなんですね」

なに、その、いきなりのトーンダウン。ちょっとひどくない?

「じゃ、あと1週間、頑張ってね」

「はい!(キッラキラの目)」

なにこれ。
やや不貞腐れ気味になった僕だけど、正直助かった。
総括的メッセージね、確かに。

「うん、僕もやっぱり同じことを感じていたんだけどね(←うそ)」

ピンチを脱した僕は、偉そうに岸さんに総括的メッセージが何か?などを指導し始めた。

その日は金曜日だったので、僕は久々に同期のメンバーたちと、飲みに行った。
全員は揃わなかったけど、竹内や平井、先週まで一緒に「てんわやんわや」っていた福原、みんな元気そうでよかった。

飲んで食べて散々しゃべり倒し、電車の時間が気になるから、そろそろ解散かな…という雰囲気が漂ってきたころ、ふいに後ろから肩をつつかれた。振り返ると平井だった。

「ん?どうし」

僕の言葉を制して、小さく手招きをして僕を呼んでいる。なんか険しい顔だな…
平井の後に続いた。

僕たちの席が見えなくなる場所を選んで、平井がスマホを差し出した。

「え?なに?」

「いいから見て」

平井は命令口調で僕を見据えている。こういうところが岸さんと違うんだよなぁ…お酒回った頭でそんなことを考えながら、スマホを受け取った。

「ん?」

なんだこれ?

それはSNSのFactBookの画面だった。
FactBookは自分の近況やメッセージをアップすると繋がっているメンバーから「ステキ!」とか「やるね!」といったポジティブな反応が得られるというもの。

「んんん?」

その画面には、何かの資料の写真が載っていた。
んんん?これ、なんか見覚えがある。

タイトル「憧れの人に褒められてしまった!キャー!!」
投稿者「SAYAKA KISHI」、これって、岸さん?
そして、その写真の資料は…社内研修のアンケート集計だ!!!
顔を上げると、平井が無表情で僕を見ていた。

「これ、社内資料でしょ?まずくない?」

うなずくのが精いっぱいの僕。
まずいよ、な、これ…

写真は拡大すれば、研修の内容もアンケート項目も、結果もわかるくらい鮮明な写真。何
よりTTSとして、こういった情報が公開されることは、社会的な信用を失う事になりかねない。

「どうしよ…」

僕は思わず平井を見つめた。
平井が手元でスマホを操作すると、シャッター音が鳴った。

「削除させるけど、報告はしないといけないと思う」

そうだよね…しかも、まだ投稿されてから2時間くらいしか経っていないはずなのに、もう60人以上が投稿に反応してる。

「まず、佐々木マネージャーに電話したほうがいいかな。一応写真は残したけど、私たちの勝手な判断はまずいと思う」

そりゃそうだ…

僕は慌てて、ポケットからスマホを出した。上司に電話するにはかなり非常識な時間だけど、仕方ない。3コールくらいして、佐々木マネージャーが出た。

「ほーい、どしたぁ?」

お気楽な感じから、どこかで楽しく飲んでいるみたいだ。僕は申し訳ないと思いつつ、手短に状況を話した。電話の向こうの佐々木マネージャーの声はどんどん固くなっていく。

「FactBookか、俺もうやってないんだよなぁ…その写メとか送れる?」

佐々木マネージャーからのリクエストを、平井はすべて見越していたかのように

「写真、佐々木マネージャーのアドレスに送った」
と言った。

「いま、平井さんから送ってもらいました」

「OK、ちょっと確認する。そのまま待って」

「はい」

スマホを操作する音が聞こえた。

「岩本、彼女の電話番号知ってる?」

「番号ですか?僕は分りませんが…」

僕が横目で平井を見ると、首を振っていた。

「メッセージなら送れる」

小さめの声で、平井が答えた。

「番号はわからないみたいですが、ダイレクトメッセージは送れるみたいです」

「岩本、ちょっと平井に替わってくれる?」

「あ、はい」

スマホを差し出すと、平井が出た。

「平井です、お疲れ様です」

なにやらやりとりをして、電話が切られた。

「佐々木マネージャー、何て?」

「彼女から佐々木マネージャーに電話するよう、メッセージしてって」

すぐさま、スマホを操作し始めた平井。僕は所在なさげに佇んでいた。

「おーい、お前ら何やってんの?そろそろ、終電ヤバくない?」

同期の声に、慌てて時間を確認する。
ヤバい!僕も平井も慌てて座敷に戻った。

週末の2日間、僕の気は重かった。岸さんの件、どうなったんだろう。すごく気になっていたが、下っ端の僕が週末に上司に電話するのも気が引けるし…
平井からは、その日のうちに「削除されたよ」とだけメッセージがきた。佐々木マネージャーと岸さん、コミュニケーションはとれたんだな。

でも、どうなるんだろ、処分とかあるのかな?
…ん?ちょっと待てよ!岸さんの指導担当って、もしかして僕?だって一緒に資料つくったし。いや正確には岸さんが作った資料を感心してただけだけど…
って、ことは…僕も怒られたりってあんの??
怖くなった僕は、平井にメッセージをしてみた。

「何の権限もない人を処分なんてしないでしょ」

クールな平井の言葉が、妙に温かった。

月曜日、出社すると、すぐに佐々木マネージャーから声がかかった。自分が何かやったわけじゃないけど、心臓がバクバクしてきた。

「おはようございます」

「ほい、おはよう。金曜日はありがと。助かったよ」

「あ、いえ…その、岸さんは…」

「もう来ないよ。藤沢GMから厳重注意してもらって、インターンも金曜日で終了してもらった」

「・・・」

「本人も反省しているし、この件はこれで終了。ただ、今後参加するインターンも含めて、学生インターン全員には、情報の扱い方についてきちんと理解してもらう機会を設けることになった」

「・・・はい」

「で、その説明会が11時からあるから、岩本も出席して」

デスクに戻った僕に、他のインターン生の一人が遠慮がちに声を掛けてきた。

「あの・・・岸さんは、もう来ないんですか?」

「・・・そうみたいだね」

「え、なんでなんですか?」

「・・・ごめん、僕もよく知らないんだ」

「あ、そうなんですね」

僕は、社会人になって、嘘がうまくなったかもしれない…
人事部での修業は、後味悪く幕を開けたのだった。

つづく


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