HOMEコラム・レポート > ~岩本絢太郎の日常~【1章 反旗】

~岩本絢太郎の日常~【1章 反旗】

  • 新入社員向け
  • ビジネススキル
  • コミュニケーション
  • 育成・OJT

コラム :ある新入社員の成長記録


【1章 反旗】

ちょっとした事件が起こったのは、昼食休憩が終わってすぐ。

「岩本っ、岩本っ!って」

竹内が大慌てで、それでいて声を殺して作業を進める僕のところへやってきた。

「…なに?」

玉入れ用の玉が破れていないか、汚れていないかチェックしながら答える僕。しゃがんだ姿勢での作業は腰に負担が来るよなぁ…あ、だから先輩たちはみんな腰が痛いっていうのかぁ…

「なに?じゃないよ、何のんびりしてんだよ!大変だって、ちょっと来てよっ!」

ん?初めて竹内の顔を見る僕。
んんん?あれ、何かヤバい??
急いで竹内の後についていく僕。足早にどこかに向かう竹内。

「お客さんへの挨拶の仕方が悪いって俺が怒られていたのにさ、なんか突然さ、平井がさ、本多さんに喰ってかかっちゃってさ」
「へ?平井が?な、なんで?」
「わからん、急に、ちょっと待ってください!とかって言ってさ」
「平井って、もしかして、竹内のことが好きなの?」
「は?そんなんじゃねぇって!」

そんなやりとりの最中も、廊下ですれ違うお客様企業の方には、

「こんにちは!」

笑顔で元気のよいご挨拶は欠かせない。
『若いってことは、元気であるってこと。これがお客様のTTSへのイメージなわけ。裏切るような挨拶はするなよ』
はじめてお客様企業に行くっていうタイミングで、言われたことだ。本多さんの声が蘇る。

「いま、どこに向かってんの?」
「お客さんに聞こえるからって、二人で作業部屋に入ってった」
「え、そこにいくの?僕も??」
「だって、なんかヤバい雰囲気だったし」
「え、だって、行ってどうすんの?」

といったタイミングで竹内が立ち止まった。
第3会議室とプレートのある部屋。僕たちが作業の拠点にするため、お客様企業から借りている部屋だ。
人の気配があって、声が漏れてる。思わず、二人そろってドアに耳を押しける。

「私が言いたいのは、そんなことじゃありませんっ!」

中から聞こえてきたのは平井の声だ。
押し殺したような声、それでいて怒りを感じる声。
今までに聞いたことがない、クールな平井らしからぬ声だった。

「じゃあ、何なんだよっ!」

応える本多さんの声も、かなりイラついているのが分かる。

「本多さんの価値観がすべてなんですか?いつでもどこでも元気に大きな声で!って、それって単に本多さんの価値観ですよね?織田社長も、藤沢GMもそんな価値観はないと思います!」
「価値観とかそんなことじゃないだろッ!お前らの教育を任されているのは俺なんだよ!」
「だから何ですか?だから本多さんの言う事がすべて正しいってことですか?」
「そんなことは言ってないだろっ!」
「さっきの竹内さんだって、あんな大きなダンボール持ってたんですよ!それを声が小さいだの、メリハリがないだの、言いがかりでしかありませんよ!」
「おい…言いがかりってなんだよ…お前、何言ってか分かってんのか?」

本多さんの声が一段低くなる。
更に言い返す平井。

「その、時代錯誤のお前って言葉、止めてもらえませんか?」

どうしよう、なんだか本格的にヤバいことになってるかも…
竹内を見ると、困ったような、苦いような、それでいて間の抜けた複雑な顔をしていた。
こんな深刻な時でもちょっとほっこりするって、なんだか得な顔だよな…そんなどうでもいいことが頭をよぎる。

向こうから人が来る気配。足音が近づいてくる。この部屋のすぐ横の角を曲がってこっちにくるだろう。
声を出すと、中にいる二人に僕らの存在がバレるけど、仕方ない。なんせ挨拶は入社同時から本多さんに叩き込まれているんだから。
人が曲がってきたと思った瞬間

「こんにちは!」

はい、いつもの、笑顔で元気のよいご挨拶!

あれ?

「おつかれさん」

相手の顔をみて思わず声があがる。

「藤沢GM!」

この時の、ほっとしたような感覚はなんと言えばよいんだろう…
藤沢GMが、本当に神というか、カリスマに見えた。

コンコンコン。

「失礼」

躊躇なくドアを開ける藤沢GM。
部屋の中の空気が変わった(ような感じがした。竹内は絶対わかってないけど)。
本多さんと目があった。平井もこっちを見ている。藤沢GMにつられるように、僕と竹内も中に入った。
平井の視線が藤沢GMを捉え、驚いている。ゆったりとした動作で、椅子に座る藤沢GM。本多さんも近くあった椅子に腰かけた。
僕も、竹内も、最後に平井も。なんとなく円になった僕ら。
少しの間、沈黙があったの後、口を開いたのは藤沢GM。

「さて…、何があった?」
「すみません」

反射的に謝る本多さん。

「怒っているわけじゃない。事情を確認したいだけだよ」

言葉を探す本多さん。 平井が説明し始めた。

発端は、竹内の挨拶の仕方が悪いと本多さんが注意したことだったけど、平井としては当初から本多さんのやり方に疑問を持っていたらしい。説明もせず一方的にやり方や態度を押しつけられること。お前やおい、など口調が体育会系でパワハラ的に感じること。平井としてはもっと仕事をする上で大事なことがあると思っており、また冷静に話し合いやディスカッションをしたいと思っていること。
はじめて聞く平井の言葉に、僕は驚いた。

「そんなこと、考えていたんだ…」

隣の竹内も間抜けな顔は相変わらずだけど、何かを考えているっぽい。
でも、確かに平井の言いたいことは分かる気がする。本多さんは実際になんでも命令的に言ってくるし、やれと言われても何でそれをするのか、意味がかわらないことも少なくない。

「なるほどね」

藤沢GMがゆっくりと頷いた。そして我々に提案をした。

「この件は会社に戻ってから、このメンバーでもう一度話さないか?」

藤沢GMの目線はまず平井へ。目線を落として反応しない平井。次にその視線は本多さんへ。

「…そうします」

本多さんが答えると、少し間があってから平井も渋々頷いた。藤沢GMの目線が来たので、僕と竹内も頷いた。

「じゃ、いまは、一旦ここまでとしよう」

すっと立ち上がった藤沢GM。僕は正直ほっとしていた。よかった、とりあえず藤沢GMがいてくれたら丸く収まりそうだ。もともと僕は平和主義で、モメ事が嫌いだ。今回だって、こんなふうになったことは自分とは関係ないのに、巻き込まれた感が否めない。だいたい何で関係ない僕を連れてきたんだよ、竹内!

…が、続く藤沢GMの言葉に思わず息をのんだ。

「私は、こういった話し合いは必要だと思っている。組織をつくる上では、逃れることもできないし、逃げるべきではない。ただし、次回の話し合いまでにそれぞれに考えてもらいたいことがある。
まず、本多と平井。この話し合いは、今ここですべきことだろうか?思い出してほしい。ここはどこだろう?なぜ来たのだろう?プロフェッショナルとは、いつでもどこでもプロフェッショナルである自覚が必要なんだ。そのことは忘れないで欲しい。
次に、岩本と竹内。君たちは、もしかして本多と平井のやりとりを他人ごとだと思っていないか?チームや組織はメンバーの相互作用でつくられているもんなんだ。つまり常に一人一人が主体者なんだ。メンバーの誰かがチームで起こることを他人事だと思った時点で、そのチームはチームとしての相互作用が弱くなり、チームとしての力を低下させていくんだ。君たちは本当にチームの一員になっているか?」

ゆっくりとみんなを見渡した藤沢GMの目は優しかった。
誰一人、言葉を発することはなかったけれど、僕たちはみんな気づいた。僕たちは、きっと、いま、とても大事なことを教わっている。

こうして平井が本多さんに反旗を翻すというこの事件は、一旦ペインディングとなった。

つづく…


メルマガ登録受付中!無料セミナー・人事お役立ち情報を毎週お届け!

注目セミナーのご案内

"~岩本絢太郎の日常~【1章 反旗】"に関連するサービス

HOMEコラム・レポート > ~岩本絢太郎の日常~【1章 反旗】